第12集 ロールモデル集 日本語
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私は1995年に心理学の修士課程に進むために渡米したのですが、それまでは自分のマイノリティ性である「女性」の立場に関心があり、女性学やフェミニズムの勉強会に参加していました。ただ、アメリカで暮らし始めるとアジア人である自分の人種的マイノリティ性や、異文化で暮らす違和感の方をより強く感じて関心が人種の問題にシフトしていきました。たまたま履修した授業「Psychology of Social Oppression(社会抑圧の心理学)」で、ホワイト・プリビレッジ(白人特権)という概念と出会ったことが今の研究につながっています。差別の問題には以前から関心を持っていましたが、常にマイノリティ側の問題として語られることが多い中、マジョリティ側で権力のある立場にいる側がその社会構造の中で恩恵を受けている、と今までになかった視点を学び、私自身の研究の方向性の素地ができました。帰国後に自分が日本人としての特権(労なくして得られる優位性)を日本社会で享受しているということと向き合い、特権について具体的な研究をしたいと思うようになりました。アメリカで学んだ「白人人種的アイデンティティ発達理論」は白人が自らの白人性とどの程度向き合うかによって異なる段階にいるというステージ理論なのですが、その日本人版は作れないか、と考えました。この理論を提示した研究者の一人は、白人でありながら反人種差別主義者として公民権運動に関わり、黒人たちのアライとして活動している人の自伝を分析し、自己変容の過程を明らかにしていったのです。同様に私は、日本人でありながら日本の民族的マイノリティのアライとなることをライフワークとしている人たちが、なぜ、どのような状況で自分が変わっていったのか、といったプロセスを調べるための聞き取り調査を進めています。私は幼少期から大人になるまで殆どをアメリカで暮らし、自分はリーダーには縁がない人間だとずっと思っていました。北米社会ではアジア人に対するステレオタイプ(おとなしい、従順、波風をたてない)があり、自分もそのことを無意識で受け容れており、リーダーに立候補することも、推薦されることもありませんでした。ところが、2009年に帰国したとたん、マジョリティの日本人として見られ、ス上智大学グローバル教育センター長、外国語学部英語学科教授。アメリカ・ボストンカレッジ人文科学大学院心理学科博士課程修了。専門は文化心理学。文化変容のプロセスやマジョリティ・マイノリティの差別の心理について研究。本学では「差別の心理学」「立場の心理学:マジョリティの特権を考える」などの科目を担当している。9特権について研究するきっかけリーダーへのチャレンジ

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